成果と改善目標によるマネジメントへ戻る

 

認知とフィードバックに関するFAQ

Q1.マズローの欲求段階説の理解は、目標管理制度の運用に役立たないのですか。

Q2.抽象性の高いバリューを社員に示し、あとは自分で工夫してもらうのがよいのでは。

Q3.米国の労働者へのあるアンケートによると、7割が上司からの褒め言葉や上司から認めてもらえることが、金銭による報酬よりもモチベーションになると言っています

Q4.山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ」と言っています。

Q5.「誉める」「褒める」は、できる人にも必要ですか。

Q6.「叱る」ことで伸びる人もいると思います。

Q7.動機付けには、「誉める」と「叱る」のバランスが必要だと思います。やる気のない人に注意を促したり、叱ったりするのは必要でしょう。

Q8.飴と鞭を使い分けることが大切ですね。

Q9.相手の成熟度や状況によって、対応は違いますか。

Q10.一人で「誉める」と「叱る」を両立させるのは簡単ではありません。役割分担はどうですか。

Q11.業績のフィードバックがあれば、行動のフィードバックは必要ないのではないですか。

Q12.人事評価結果は、単に評点を伝えるのであれば、面談する必要はないと思います。

Q13.評価面談を、パフォーマンスの測定ではなく「交渉」と考える人がいます。面接の場を作って、本人が自分の言い分を主張する機会を設けたほうが、評価の公正感が高まるのではないでしょうか。

Q14.M&Aの8割が失敗し、その原因の大多数が“文化”の違いだと言われています。考えや文化の違いを上手く活かせないのはなぜでしょう。日本の場合、議論をしていくうちに「お前生意気だ!」と言われることが少なくありません。

 

 

Q1.マズローの欲求段階説の理解は、目標管理制度の運用に役立たないのですか。実証的根拠があるかないかというのはそんなに重要ではなく、マネジャーがモデルから「彼は一体、何を欲しているのだろう」と考えるきっかけになるのではないでしょうか

 

A. デメリットの方が大きいのではないでしょうか。第1は、目標によるマネジメント(MBO)の目標達成で自己実現を図れる度合いが高まるといった短絡的な引用になってしまうことです。仮にそうだとしてもその度合いはかなり限定的なはずです。もっと他の要因があり、それらとの比較なしにマズローに脚光を当てるのには偏りがあります。

 

第2は、価値と価値のコンフリクトが頻発することです。生命が危うい時に、文化的な価値や、自己実現を図る人はいません。価値の序列を認識しているとしても、ニーチェの言うように「ルサンティマン」(恨み)による価値の倒逆も起り得ます。

 

自然環境保護、フィランソロフィー、人財育成などを標榜してきた会社が業績悪化により、「人の切り捨て」をしていたとしたら、「(企業)生命が危うい時だから・・・」となります。状況別に、価値と価値のコンフリクトをどう判断するかが大切です。

 

バリューだとか言って、価値と価値のコンフリクトや価値の倒逆について何も考察されなければ意味がありません。

 

第3は、「MBOの目標を達成すれば、自己実現の欲求が満たされるはずだから、何も言う必要はない」と思い込み、よい行動があった場合でも、すぐ、その場で誉めることをしない管理者がいることでしょう。「誉める」「褒める」にコストはかかりません。

Top へ

 

Q2.抽象性の高いバリューを社員に示し、あとは自分で工夫してもらうのがよいのでは。

 

価値と価値が対立、コンフリクトすることが多いので、そうした状況でどうするか、どう判断できるかが大切です。「変化が激しいのでスピード経営」を標榜する会社が多く存在しますが、クオリティがスピードと矛盾する場合が少なくありません。「信」と「忠」の対立するケースと似ています。

 

「抽象性の高いバリューを社員に示し、あとは自分で工夫しなさい」では、マネジメントの放棄に近いものがあります。事例をより多く知ること、事例を通して、判断力を高める訓練=学習することが効果的です。抽象的な議論だけしていても仕方ありません。

Top へ

 

Q3.米国の労働者へのあるアンケートによると、7割が上司からの褒め言葉や上司から認めてもらえることが、金銭による報酬よりもモチベーションになると言っています。8割はいい仕事をする動機づけになるということです。

 

A. 上司から認めてもらえること=明確な認知が一つのポイントです。認知しない=無視するのが最悪です。「愛すること」の反対は「憎悪」でなく、「無関心」だと言われています。ここにも同じような関係が考えられます。

 

ただし、多くの日本人は、うまく誉められた経験が少ないのだと思います。そうした管理職に「誉めなさい」と言っても簡単には行きません。

Top へ

 

Q4.山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ」と言っています。

 

理解してもらい、見てもらい、試してもらい、フィードバックしてあげることの重要性がよく表現されています。「誉めること」に関しても「言って聞かせる」だけでは、行動になりません。誉めさせてみせ、うまく誉められたら、それを誉める必要があります。

Top へ

 

Q5.「誉める」「褒める」は、できる人にも必要ですか。

 

A. ダイアナ妃が生前のBBCとのインタビューで「やって当たり前で、だれも誉めてくれなかった。」との趣旨の話をしていました。

 

当社のクライアントの社員の多くは、「叱る回数よりも誉める回数を多くしましょう」、「月に最低1件は、部下の優れた行動を誉め、報告してください」と言ってもうまく誉められません。そこで、次のようなアプローチをアドバイスしている次第です。

 

ステップ1:相手のレベルが向上したら誉め、改善がみられたら誉め、よい方向に向かっていたら途中で誉め、レポートのある部分が悪くてもよい部分を誉める。午前中のことはできるだけ午前中に、今日のことはできるだけ今日のうちに誉める。「よくやった」「頑張った」でなく、具体的な行動を明確にして誉める。「しっかりやろう」「頑張ろう」は使わない。

 

ステップ2:具体的な事実としての行動を誉めたら、その中で優秀と思われるものは報告してもらい、ナレッジ・ベースとして、データベース化する。

報告する訳ですから、管理者は抽象的に誉めている訳には行かなくなります。報告は紙ベースでは大変です。Eメールのご利用を!

 

ステップ3:データベースに取り入れられた場合には、社員用のポイントシステムで認知してあげる。賞与用の評価を待つ必要はありません。その月内あるいは翌月5日までにポイントを付与しましょう。

 

優秀と判断する基準にコンピテンシーや行動指針を取り入れるとうまく行くようです。接客サービスが業務の大半の会社であれば、プロセス面で区分した「真実の瞬間」別でもよいと思います。

Top へ

 

Q6.「叱る」ことで伸びる人もいると思います。

 

A. D・マクレランド風にみると、達成志向性が高く、自分に対する自信のある人には厳しくてもOK。P・ハーシー、K・H・ブランシャード風に言えば、目的意識が明確でサポートの必要性の低い成熟した人には、無闇に誉める必要なし、といったところでしょうか。

Top へ

 

Q7.動機付けには、「誉める」と「叱る」のバランスが必要だと思います。やる気のない人に注意を促したり、叱ったりするのは必要でしょう。

 

A. 同感です。ただ、揚げ足を取るようで恐縮ですが、「やる気のない人」「モチベーションを与える」というのは、日常、頻繁に使われるので、かえって気をつけた方がよいと思われます。米国のビジネス書でも、管理者が特定の部下に対し「やる気がない」「モチベーションが欠けている」「資質がない」「能力がない」などと思った場合、自分が「ビジョンを示していない」「目的・目標が明確でない」「やり方を理解させていない」「他の方法との比較をしていない」「失敗した時に責任を取らない」「組織上の障害を除いていない」などのポイントをクリアしているかどうか、チェックすることを説いているものがあります。

 

そうした具体的な原因がある場合には、それを解決することが先決で、「やる気」や「動機付け」以前の問題です。

Top へ

 

Q8.飴と鞭を使い分けることが大切ですね。

 

「飴と鞭」というと「報酬制度を整備して、やる気を出させよう」などと現場のマネジメントを放棄するような議論になりやすいので、注意した方がよいでしょう。コーチングの仕方がわからない管理職には、自分の責任と役割の中で、部下のマネジメントをすることが自分の仕事であることを認識してもらいましょう。

 

また、肯定的なフィードバックと否定的なフィードバックをどうバランスさせるかではなく、肯定的なものは

1)課題としているものがよくなっている場合、全てフィードバックする

2)課題外でも、上達が目立つものはフィードバックする

3)1も2もない場合は、何かないか考える

 

他方、否定的なものは、

1)本人が改善しやすいものを1つか2つに限りフィードバックする

2)肯定的なものを付け加える

 

といった留意できると、コーチングの効果が上がると思います。

Top へ

 

Q9.相手の成熟度や状況によって、対応は違いますか。

 

レジャースキーを楽しむためにスキー学校に入ってくる普通の人をコーチする場合、その日のゲレンデの状況、雪質、個人の運動能力等に応じて適切なドリルを組んだり、滑るスピードを調整したりするのと、どんな風にフィードバックするかが上達への鍵を握ります。

 

自分のレベルからみるのでなく、相手が上達すれば、「よくなってます。いまのリズムです。でも、ストックの使い方はこんな風に!その調子で行けば、ステップターンももうすくです。」といった感じです。

 

競技スキーの選手にも同じようなことが言えますが、より有効なのは「ビデオで自分のフォームを確認、優れた選手のフォームと比較させる」ことと「タイム」のフィードバックです。向上心のある大学生にもなれば、ビデオとタイムのフィードバックで効果が上がります。

Top へ

 

Q10.一人で「誉める」と「叱る」を両立させるのは簡単ではありません。役割分担はどうですか。

 

A. スポーツの監督とコーチにもそうした関係がよくみられます。人的な余裕があれば、それも一手です。ただし、相手自身ではなく、対象の行動を誉める、叱るようにすることで、うまく行くようになるはずです。

Top へ

 

Q11.業績のフィードバックがあれば、行動のフィードバックは必要ないのではないですか。

 

A.Plan-Do-Check-Action などのマネジメントサイクルでは、自分の行動の結果や効果度合いの確認・フィードバックが不可欠です。

 

「出来た」「出来なかった」は、簡単にはわかりません。店で、顧客満足向上のために、「あれとこれをやった」が自分の行動になりますが、それでどれだけ顧客満足の向上になるのかはなかなか確認できません。業務効率の向上や品質の改善についても同じようなことが言えます。

 

営業活動でも、売上数字にはすぐには現れませんので、よくあるのが上司が「その活動でなく、こっちをやって欲しい」、部下が「来期のためぜひこの活動を実施したい」といったことです。今、優先すべき望ましい行動は何なのか。正解が明確でない状況での仕事が多い中で、いくら「自立&自律」していても、フィードバックは必要でしょう。

Top へ

 

Q12.人事評価結果は、単に評点を伝えるのであれば、面談する必要はないと思います。

 

A. 「コーチング」になるフィードバックを含む面談がうまく出きれば、実施するのが上策です。評点を伝え、「昨年はよくやってくれた。難しい状況でよく頑張ってくれた」あるいは「もっと努力して欲しかった。何か工夫が欲しかった。」では、意味がありません。人によって必要な場合もあるでしょうが、上記の内容ならEメールか手紙でも十分です。

 

人事部の人はきちんとした評価面談を前提としているので、面談の重要性を説きます。他方、現場では、結果の伝達のような面談しかイメージしていない、あるいは出来ないので、「面談より顧客訪問が重要だ」となりがちです。

Top へ

 

Q13.評価面談を、パフォーマンスの測定ではなく「交渉」と考える人がいます。面接の場を作って、本人が自分の言い分を主張する機会を設けたほうが、評価の公正感が高まるのではないでしょうか。

 

現実的に考えると、面談スキルが十分でない場合、全員との面談はしないのも一手です。一般的に、評価がよい人が2割、平均の評価の人が6割、平均以下の評価が2割と言われます。上位2割の人と、平均6割の過半数の人にはメールか手紙でも十分です。

 

下位2割の人には、そもそも業績向上のための施策の一環として面談が必要です。

Top へ

 

Q14. M&Aの8割が失敗し、その原因の大多数が“文化”の違いだと言われています。考えや文化の違いを上手く活かせないのはなぜでしょう。日本の場合、議論をしていくうちに「お前生意気だ!」と言われることが少なくありません。

 

A. 慶應義塾大学の村田昭治 名誉教授の著書に次の一節があります。

 

異質なものから創造性は生まれます。同質の集合からは創造性は生まれにくい。創造的発想は異分野からの意見を闘わせ合うところから生まれます。

 

人を、自分と考えが違うから嫌いになっては駄目だと続き、考えが違うから、I don't like him. I don't like her. になってしまう人が多い。そうではない。He is different. She is different. だから面白い。・・・(後者の)見方をする限り、私たちの夢やロマンはどんどん拡がっていく・・・

 

意見を闘わせる風土がなく、「違うから嫌い」となる人が多い組織風土の会社は、優秀な人材を確保するのが難しくなって行くでしょう。現在では、このようなメーリングリストなどを通して、一般社員にも自社のマネジメントや制度・風土の優劣がはっきり認識できるようになっています。昔は、これが当社のやり方だで済まされていたかも知れません。

 

仕事が人生の全てではないのですから、仕事上は誰だれのどの意見には同意できない、誰だれのどの行動は望ましくないと捉え、全人格的に「あの人は・・・」は避けたいものです。議論を通して、単なる妥協案ではない第3案を導き出せる能力が「創造」につながります。

Top へ