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ナレッジシステムとコンピテンシーに関するFAQ

Q1. ナレッジ・システムを導入しても社員がアイデアを出しません。

Q2. ナレッジ・システムと連動した能力・行動評価では、何を評価基準とするのですか。

Q3.優れた行動事例の報告は、文章として残す必要がありますか。

Q4. 社員用のポイントシステムとは何ですか。

Q5. 職種・階層別の行動指針の作成にはどれくらいの経費がかかりますか。

Q6. 行動指針とコンピテンシーはどう違うのですか。

Q7. 行動事例を特定するメリットは何ですか。

Q8.具体的な行動のイメージが持てる行動指針は創造性を制限しませんか。

Q9.行動マニュアルと行動指針はどう違うのですか。

Q10.行動特性としての「コンピテンシー」と戦略論での「コア・コンピタンス」の関係は。

Q11.現在の優秀者の行動からは、将来の競争優位性は得られないのではないですか。

Q12.コンピテンシーが重要だとしても、すぐに習得できないのでは。

Q13.組織も個人も自らのコアスキルを活かすことが求められる訳ですか。

Q14.チームを最高の状態にするためには、人と人のマッチングが重要なのでは。

Q15.個人のコンピテンシーを集めると、組織行動のコンピタンスになるでしょうか。個人知が複雑に絡み合った組織知は、必ずしも個人知の総和ではありません。

 

 

Q1. ナレッジ・システムを導入しても社員がアイデアを出しません。自分自身の資産として囲いたがる傾向があり、優れた知恵や行動事例が収集できません

 

A. Take and Give でスタートできるデータベースと仕組み

「個人の経験を共有しましょう」「グループウェアを使いましょう」というより「こんな事例があります」を示せるナレッジベースの提供が有効です。

 

いつ、どこで、何を、どのように、だれと、どうしたことで、どんな成果を得たのかが具体的に記述されているデータベースの提供が先だと思います。

 

Win=Winの関係ができていなければ、自分のノウハウを提供することは、多くの知識労働者にとって損なことと受け止められるのでしょう。Give and Take でなく、Take and Give でスタートできるデータベースと仕組みの提供が求められます。

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Q2. ナレッジ・システムと連動した能力・行動評価では、何を評価基準とするのですか。

 

A.まず、個人に望まれる行動特性としてのコンピテンシーから、職種・階層別に期待される望ましい行動指針を作成し、能力・行動評価の項目にします。行動指針は個人の職務で、どのような状況・場面において何をすることかを具体的に説明・理解できる「現場レベル」にしておきます。職務上での行動のイメージが可能な行動指針が能力・行動評価シートに示される訳です。

 

評価は、5段階評価ならば、その行動が発揮されなければ=1、時々発揮されていれば=2、しっかり発揮されていれば=3とします。ここまでは頻度(量)での評価。そして、発揮された行動のクオリティー(質)が部門のベストプラクティスになり得る場合=4、全社のベストプラクティスになり得る場合=5とし、4と5に相当すると思われる場合には報告を義務付けます。報告がなければ、4以上の評価を認めません。

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Q3.優れた行動事例の報告は、文章として残す必要がありますか。

 

A. ビデオが可能ならばそれでもよいと思います。でも何らかの形でその行動が確認できないと、ナレッジ・データベースになりません。Eメールでの報告が便利でしょう。

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Q4. 社員用のポイントシステムとは何ですか。

 

A. ナレッジ・システムを能力・行動評価と連動させ、半年後や1年後の賞与でなく、優れた行動事例を直後に認知し、社員用のポイントシステムに即刻反映させる仕組みです。

 

人事の責任者と部門&全社のナレッジ・マネジャーが4、5として認めた行動をナレッジ・データベースに登録するとともに社員にポイントを付与します。ポイントは航空会社のマイレージと同様のプログラムですので、特典の与え方は、何ポイント以上の累積でブロンズ、ゴールドとなり、会社の製品との交換を何ポイントで行うといったものになります。

 

顧客へのポイントシステムを導入している会社であれば、社員用もすぐ展開できますが、“ポイント”は行動指針を職種・階層別に準備することだと思います。

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Q5. 職種・階層別の行動指針の作成にはどれくらいの経費がかかりますか。コンサルティング会社に依頼すると、通常、一つのコンピテンシーモデルの分析・構築に150万円から200万円の費用がかかります。それでは、経費負担が大きすぎるのですが

 

A. 3〜5年前に行っていたような時間とコストのかかるインタビューによるコンピテンシー分析・モデル構築を行わずに、行動指針を作成できるようになりました。能力・行動評価とナレッジマネジメント用に職種・階層別に行動指針を作成する費用は、一つの職種で10万から20万円で済みます。

 

ただし、このような能力・行動評価は「紙」のシートでは不可能です。ウェブか表計算ソフトのファイルを「評価シート」として利用します。人事評価シートの電子化については、「賃金事情」4月5日号で解説してあります。

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Q6.行動指針とコンピテンシーはどう違うのですか。

 

A.  行動事例、行動指針、行動特性(コンピテンシー)の関係を整理してみます。

 

行動事例:だれが、いつ、どこで、だれと、何を、どうしたかの事実

例:米国のスミス弁護士が、1947年3月5日、市ヶ谷東京裁判の法廷で豪州のウェブ裁判長から、発言の撤回と謝罪を求められたのに対し、それを拒否。記者席に退場した後で、法廷に戻り、裁判長にこのやり取りを議事録に残すことを要請した。

 

行動指針:複数の行動事例から、共通する要素を取り出し、指針としたもの

例:弁護士として法的な正義を尊重し、政治的な圧力には屈しない

 

コンピテンシー:行動心理学上の概念で整理されたもの

上記の行動はSpencer, L.M,"Competence at Work" John Wiley & Sons, 1993の分類に従うと、「自分に対する自信」のコンピテンシーで、一般的な表現は「コンフリクトの中でも、自分の信念に基づいて自分の立場を明確にした行動を取る」となります。(P.82)「コンピテンシー辞書」の中のひとつです。

 

ただ、同じコンピテンシーと言っても、文章の書き方まで述べている本もありますので、会社によって捉え方に大きな違いがあります。

 

エンパワーメント、ヴィジョン提示、コーチング、権限委譲といった抽象的な概念は、頭で理解できても、実際の行動にならない人が9割以上でしょう。具体的に何をやったらよいのかわからないから、できない人が多いのです。抽象的なナレッジベースでは意味がありません。行動指針というのは、本人が自分でどのように行動したらよいのかのガイドとなるものです。

 

理論や抽象的な概念は、具体的な事例で例を示さないと、自分の立場で何をしたらよいのか、効果的には考えられません。ワークショップ等で、事例を研究したり、討議することの意義がここにあります。

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Q7.行動事例を特定するメリットは何ですか。

 

A. 古代中国のリーダーに必要な資質として「徳」があります。この概念はさらに「仁」「義」「礼」「信」「智」「悌」「孝」「忠」などに分かれます。そして最終的には「個別の具体的な行動事例」になります。中国では、昔から、実際の行動事例を記録したデータベースがあり、そこから優れた行動指針や概念が生まれています。ビジネス・スクールでのケースと理論の関係に似ています。

 

問題は「義」や「信」を説いても、普通の人には具体的にどういう行動がそれらに該当するのかがよくわからないことです。それではナレッジベースになりません。できるだけ、現場に近い事例をデータベースに蓄積、公開するのが、行動変革を促すのに有効です。

 

顧客サービスの重要性を概念で説くよりも、実際にお客様から喜ばれた事例を接客担当者、営業、サポート、商品企画、管理といった職種別に収集し、例えばプロセス別・真実の瞬間タイプ別などで分類、分類毎に行動指針でラベルをつけ望ましい事例を示しておく方が、何をすれば顧客サービスなのかよくわかります。

 

創造性の発揮が必要だと言われて久しいですが、具体的には何をすれば創造性が発揮されたことになるのでしょうか。

 

いずれにしても、ナレッジベースにするには、具体的な行動事例=事実を収集し、それを、職種・階層別に自分の行動としてイメージできるように表現したものを「行動指針」とまとめた方が現場で使いやすいでしょう。抽象的な表現だけでは、何のことかを理解するのが難しい一方、行動事例が列挙されているだけでも理解は困難です。

 

行動事例の中から、優れた行動をデータベース化し、行動指針をより適切かつ的確なものにできれば、人材育成・コーチングはやりやすくなるでしょう。

 

なお、評価では本人の取った行動が対象となります。「信」で例えれば、伍子胥と諸葛孔明の「信」のレベル自体を比べても意味がありません。二人の特定の行動=事実を確認することが大切です。

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Q8.具体的な行動のイメージが持てる行動指針は創造性を制限しませんか。

 

A. 工夫や改善をしようという人ならば、行動事例に学び、行動指針に書かれていることを乗り越える試みをします。よい事例が集まったら、それをデータベースに蓄積し、必要に応じて行動指針を書き換えればよいでしょう。

 

抽象的な概念を受け売りするよりも、現場でどんな時に、だれに、何を、どうするのかをイメージできる行動指針を展開することが得策です。

 

行動事例を伴った行動指針によって、望ましい行動をガイドしても、それで創造性や創意工夫が消滅するようなことは決してありません。キャッチフレーズでなく、現場での行動を思い浮かべることのできるレベルの指針=ガイドが行動指針です。

 

現場での望ましい行動をイメージできるような行動指針と多くの行動事例がナレッジベースになっていないのは、何が特許として登録されているかのデータベースがないのに似ています。これがいいだろうと思っても、実は既にだれが行っている場合が少なくありません。本人にとっては新しい創造だとしても、それでは創造ではありません。単なる、不勉強かも知れません。

 

創造性が要求される職掌のひとつとして、研究開発職があります。そこで、インターディシプリナリーな研究が有効な場合、次の2つのコンピテンシーが求められるでしょう。1)状況に応じて、多角的な視点に立ち有効な理論や方法論を活用する(柔軟性)
2)一つの情報だけに頼らず、独自の情報ネットワークを持ち、普通の人には得られないような情報でも迅速かつ的確に入手し、情報の客観性・正確性を得る(情報指向性)

 

行動指針の一つは、もし研究開発の分野が電子工学とすると、「電子工学だけでなく、量子力学や生物学等の学会報告、研究会からの最新情報も的確かつ迅速に収集し、研究に活用する」といった表現になると思われます。

 

このような行動指針が示されると、書かれた以外の領域の研究には目を向けないような研究者なら創造性の高い仕事はそもそも期待できません。

 

望ましい行動事例のナレッジベースがない場合には、組織に既存のやり方を個人として創造する作業の比率が高まります。既存の知識を創造するために時間を無駄にすることになり、本当のクリエイティブな仕事はなかなかできません。

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Q9.行動マニュアルと行動指針はどう違うのですか。

 

A. ナレッジベースや行動指針は、行動マニュアルではありません。どのような状況の中で、どのような対応が効果的なのかの事例がデータベース化され、その中で期待される重要なものが行動指針です。一方、行動マニュアルは、手続きや手順に添って取られるべき行動を示したものと言えます。

 

行動指針を普通に行っているだけでは、4や5の評価を得られません。5段階評価で5が最高の場合、行動評価で4や5を目指すには、創意工夫が必要です。

 

職務内容がはっきりしていない時には、一般的な行動指針でもOKです。でも、何を成果とするのか、何が目標なのかを捉え、その目標達成のために何をすることが求められるかを整理できれば、その仕事での行動指針が絞られて来ます。

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Q10.行動特性としての「コンピテンシー」と戦略論での「コア・コンピタンス」の関係は。

 

A. 語源は同じですが、論理的には関係ありません。組織のコア・コンピタンスと心理学あるいは行動心理学のコンピテンシーとは別です。後者は、行動特性あるいは職務適性と理解していただいた方が、話が混乱しないと思います。

 

コンピテンシーは、1960年代には心理学で使われていた言葉です。それが70年代のD.マクレランドを中心とした優秀者の行動特性に着目した研究から、発展しました。ただ、心理学の知識がないと理解が簡単ではありません。企業内での展開では、現場の人が理解できる「行動特性」をお薦めします。

 

さらに、実際の現場での活用では、行動事例と「職務での適用をイメージできる行動指針」の組み合わせがよいと思います。コンピテンシーは人事専門の人が人材アセスメントする時に活用したらいかがでしょうか。

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Q11.現在の優秀者の行動からは、将来の競争優位性は得られないのではないですか。次世代の競争優位を産み出した人が、次々世代の競争優位を産み出せるでしょうか。例えば、松下幸之助さんの行動を繰り返せば、明日の成功は得られますか。

 

A. 1)次世代の競争優位を産み出した人が、次々世代の競争優位を産み出せるかどうかですが、その回答は「産み出した人の方が生み出さなかった人よりも、産み出す確率が高い」です。

 

ホームランを打った選手と同様かつ同等の運動能力を有した人の方が、有しない人よりも、次の打席でホームランを打つ可能性が高いという考えと同種の理論です。

 

そうした運動能力・センスのある人に、バッティング技術を教えるのと、バッティング技術はあっても運動能力のない人の運動能力を高めるのと、どちらがトレーニングへの投資効果が高いかがコンピテンシーの議論の背景にあります。

 

実際には、相手のピッチャーとの相性もありますので、話はより複雑になりますけれど。ビジネス組織では、これが個人と組織のシナジーの議論になります。

 

2)「松下幸之助さんの行動を繰り返せば、明日の成功は得られますか」についての回答はNOです。

 

コンピテンシーは、やったこと、行った行動ではなく、行動特性です。例えば、いろいろな局面で異分野の方法論を活用した事実があったとすれば、今後も、新しいアイデアを考える時にインターディシプリナリーなアプローチ取る確率が高いということです。過去の異分野の組み合わせと同じ組み合わせが次世代の製品開発を成功に導くとは限りません。

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Q12.コンピテンシーが重要だとしても、すぐに習得できないのでは。

 

A.「簡単に習得できない」が正にキーワードです。適性のない人に教育・研修を実施しても投資効果が少ないので、採用・選別の時点で、適性をできるだけ把握する訳です。

 

「先手必勝、先見性が重要、仕事は前裁きよく」はわかっている、あるいは教えられても、その実績のない人はなかなか実行できるようにはなりません。

 

日本経済新聞2000年3月5日付けのSunday Nikkeiサイエンスに「イヌの個性、遺伝子で探る」という記事が掲載されていました。

盲導犬は生まれてから約1年間「盲導犬候補」としてしつけなどを訓練、適性のある個体だけが本格的な訓練へと進み、その訓練に合格して初めて盲導犬となる。しかし、「同じ育て方をしても、約半数がふるいにかけられてしまうのが現状」・・・
(適性を)子犬の段階で見極められれば、より適切な教育法や選抜法が編み出せるかもしれない。

ということで、人間の神経細胞にあるドーパミン受容体の遺伝子(DRD4)に相当するイヌの塩基配列の繰り返し回数とイヌそれぞれの「気質」の研究が進んでいるそうです。おとなしい気質のゴールデンレトリバーと、活発な気質のシバイヌとの間に遺伝子レベルで差があることが明らかだと言われています。

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Q13.組織も個人も自らのコアスキルを活かすことが求められる訳ですか。

 

A. 孫子の人気があるのはそのためでしょう。「勝てる戦いを戦う」のが紀元前からの戦術の基本です。欧米でもよく引用されます。

 

ただ、スキルは、定義にもよりますが、比較的簡単に短期間で習得できます。逆に「行動特性」、例えば、教授や上司に対する反対意見を述べることなどは、その必要性を理解し、それを求められても、特性のない人にはなかなか出来るようになりません。

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Q14.チームを最高の状態にするためには、人と人のマッチングが重要なのでは

 

A. 人と人との組み合わせと職務と人のマッチングが同程度の重要性を持っていると思います。当然、業態や組織によって比重は異なりますけれど。

 

ただし、人と人のマッチングといっても、状況が絡んで来ますので、簡単には判断できません。臥薪嘗胆の故事で有名な越王 句践と家臣の范蠡は、呉を倒すまでの時期には、よいコンビだったと言えます。が、覇権を握ると、范蠡は越王の性格を考慮して、上手く行くはずがないと言って、越を去っています。范蠡は後に、陶に移り富をなした、朱公です。

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Q15.個人のコンピテンシーを集めると、組織行動のコンピタンスになるでしょうか。個人知が複雑に絡み合った組織知は、必ずしも個人知の総和ではありません。

 

A. 議論のレベルは下がるかも知れませんが、やさしく考えてみましょう。

 

視点1:チームプレー
2つの野球チームがあります。それぞれのチームの9人の資質・能力が同じでも、チームの戦略・戦術、チームワークが異なれば、チーム力に差が出ます。

 

視点2:異なる色の組み合わせ
3原色があれば、いろいろな色を作れます。いくら量があっても、1色だけでは、他の色は生まれません。

 

視点1は、昔から議論されています。個人の資質・能力・コンピテンシーを活かすマネジメント。組織がなければ、組織力になりません。D.マクレランドの後継者が主のMcBer社の人たちでさえ、個人のコンピテンシーの発揮を妨げるマネジメントや組織上の障害を指摘しています。

 

視点2は、単なる「相性」や「ケミストリー」ではありません。異質のものによるシナジーです。異質ものもを除外する同質化された組織では、違ったものを「価値観が異なる」「彼は間違っている」挙句の果てには、「彼は嫌いだ」と受け付けなくなってしまします。

 

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